SPOONFUL ってどんな曲?

 掲示板で光平さんが spoonful の訳詞を載せてくれたので、それを読んでみたが・・・アレレ?どうもわたしの知っている spoonful とは歌詞が違うような気がする。 しかし考えてみれば spoonful ってのはかなりシンプルな曲なので、色んなアーティストのカバーがたくさんあって、またそれなりに皆んな自分の解釈で演奏しているようだ。 実際わたしもかなり独自な解釈をして唄っている。 これは少し自宅にある音源からだけでも spoonful を聞き返してみようと思ったのだが・・・・
 さて自宅には以下の5バージョンがあったが、聞き返してみると、どのテイクも微妙に選ぶ言葉が違っていて・・・それがそれぞれのカラーを際立たせているようにも感じる。 これはひとつ頑張って自分で歌詞を聞きとって訳してみようとおもったのが、このページ。 当然ネイティブではないわたしの耳が聞き取ったのだから、そんなにアテにはならないけれど・・・でもそれなりにはマジメで面白い(ハズ)。

  • Howlin' Wolf : CHICAGO BLUES GOLDEN?PACKAGE

 '70年頃にリリースされた二枚組みLPから聞き取った Willie Dixon 作とされる‘60年のオリジナル。 もっともその前に Charley Patton の Spoonful Blues という曲があるので、それを改作したモノと思われる。 ちなみに当時の Muddy Waters と Howlin' Wolf のヒット曲は Willie Dixon の作によるものが多い。 つまり Willie Dixon がそれ程に売れていた時代の作品というわけで、それだけに微妙な言いまわしに上手さを感じてしまう。 曲は 「ダイアモンド&黄金」 → 「珈琲&紅茶」 → 「水」 という三部構成になっている。 ところで precious という単語は皮肉的ニュアンスもある。 特に二題目の precious はそれが強いので、ここは「ごりっぱな」と訳してみた。 蛇足だが、ここでは 3rd verse の forty-five を45口径の弾丸と訳してみたが、実は訳者としては未だ少し納得していない。 つまり forty-nine(99.99% の意味) ではあまりに露骨なので forty-five に書き換えたのではと疑っている。 またこの時期は45回転シングルの時代でもある。 つまりそれもかけていると考えるのも面白そうだ。

They could fill spoons full of diamonds,
Could fill spoons full of gold.
Just a little spoon of your precious love
satisfied my soul.

Men lies about it.
Some uptight about it.
Some are dies about it.
Everything's a-fightin' about the spoonful.
That spoon, that spoon, that spoonful
....

They could fill spoons full of coffee,
Could fill spoons full of tea.
But a little spoon of your precious love
good enough for me?

Chorus

They could fill spoons full of water,
Save them from the desert sands.
But one spoon of little forty-five
Saved you from another man.

Chorus

ヤツらダイアモンド一盃のスプーンで満たせただろうに
黄金一盃のスプーンで満たせただろうに
そうさお前のご立派な愛のほんのひとさじですら
オレの魂を救ったんだもの

男達はそれの嘘をつく
何人かはそれに神経質でね
何人かはそれで死んじまうんだ
全てはそのひとさじのために争っている
そのスプーン、そのスプーンひとさじ
....

ヤツら珈琲一盃のスプーンで満たせただろうに
紅茶一盃のスプーンで満たせただろうに
でもお前のご立派な愛のほんのひとさじで
オレには充分だってかい?

(コーラス)

ヤツら水一盃のスプーンで満たせただろうに
ヤツらを不毛な砂漠から救えたんだ
でも45口径(45回転のドーナッツ盤?)のたったひとさじが
お前を他の男から救い出したんだぜ

(コーラス)


  • the Cream : Fresh Cream (1966)

 あらかじめ明確にしておくと、これは fresh cream からの聞き取りで、ライブ・バージョンは確認していない。 また、わたしが最初に聞いた spoonful なので個人的には思い入れが強い。 とはいえ Howlin' Wolf のバージョンに比べると言葉選びがちょっと洗練されているように感じるのだが、どうだろうか? 特に thirsty night for me(オレの渇いた夜のため) って部分がおしゃれだなって感じたりする。 もっとも forty-five が your lonely life ってのは、ちょっと線が細いって気もするが・・・それも Cream らしい気がしないでもない。

Cculd fill spoons full of diamonds,
Could fill spoons full of gold.
Just a little spoon of your precious love
satisfied my soul.

Maybe lies are for it.
Some of them cries are for it.
Some of them dies are for it.
Everything's a-fightin' about the spoonful.
That spoon, that spoon, that spoonful
...

Could fill spoons full of coffee,
Could fill spoons full of tea.
just a little spoon of your precious love
thirsty night for me

Chorus

Could fill spoons full of water,
Save them from the desert sands.
But the little spoon of your lonely life
Saved you from another man.

Chorus

ダイアモンド一盃のスプーンで満たせただろうに
黄金一盃のスプーンで満たせただろうに
そうさお前のご立派な愛のほんのひとさじですら
オレの魂を救ったんだもの

多分ウソはその為さ
その為にヤツらの何人かは泣いて
その為にヤツらの何人かは死ぬんだ
全部ひとさじのために争っている
そのスプーン、スプーンひとさじにね
....

珈琲一盃のスプーンで満たせただろうに
紅茶一盃のスプーンで満たせただろうに
お前の貴重な愛のたったひとさじは
オレの渇いた夜のためさ

(コーラス)

ひとさじの水が満たせたなら
ヤツらを不毛の砂漠から救えるんだ
でもお前の孤独な人生のたったひとさじが
他の男からお前を救い出したんだぜ

(コーラス)


  • Ten Years After : Ten Years After (1967)

 今回一番聞き取りに困ったバージョン。 やはりアルビン・リーはギタリストでヴォーカリストとしてはイマイチというところだろうか。

Well, could fill spoons full of coffee,
Could fill spoons full of tea.
Just a little (baby's alone?) pleasure
good enough for me

I'm wild about that.
I'm crazy about that
woop, love you baby
Everybody talkin' about
Everybody's fine
Everybody loves
woo... yeah

woop well, could fill spoons full of diamond
....from my desert sands
could fill spoonful of your precious love
save you from another man

Chorus

そうさ、珈琲一盃のスプーンで満たせただろうに
紅茶一盃のスプーンで満たせただろうに
ほんの少しの(ベイビの孤独な?)の喜びで
オレには充分さ

オレはそれに首ったけさ
オレはそれに夢中なんだ
ウ〜、ベイビ愛してるよ
皆んなが話してる
皆んな最高さ
皆んなが愛してるぜ
ウ〜、イェ〜

ウ〜そうさ、ダイアモンド一盃のスプーンで満たせただろうに
不毛の砂漠から・・・
お前の貴重な愛で一盃のスプーンで満たせただろうに
お前を他の男から救えるんだ

(コーラス)


  • Shadows Of Knight : Back Door Men (1967)
 シカゴのバンドであるからには Howlin' Wolf の歌詞に忠実だろうと予測したのだが、意外とそうでもない。 勿論演奏はかなりオリジナルのイメージを残しているのだが、歌詞の方は例えば precious という単語を sweat(スウィート) といった一般的なラブ・ソングで使われる単語に置き換えたりナド、やっぱり白人の若造クンが歌えるように上手く変更されている。 これは決して悪いことじゃなくって、曲を自分で消化しているという意味では当然なことだとも思う。 ところで 3rd verse の fortifier(アルコール)と訳した部分は聞き取りに自信が無い。 ネットでその単語を使っている歌詞サイトがあったのでそれを流用したが、どうも forti???? の ? の部分が違うように聞こえてしまう。 forty-five でないことだけは確かなのだが・・・
Could be a spoonfull of diamonds,
Could be a spoonful of gold.
Just a little spoon of your sweat love
satisfied my soul.

some man lies about that.
some of them cries about that.
some of them dies about that.
Everybody's fightin' for the spoonful.
That spoon, that spoon, that spoonful .

Could be a spoonful of coffee,
Could be a spoonful of tea.
just a little spoon from your sweat lives
good enough for me?

Chorus

Could be a spoonful of water,
Save you from the desert sands.
just a little spoon from my fortifier
Saved you from another man.

Chorus

ダイアモンドのひとさじでよかったんだ
黄金のひとさじでよかった
お前のスウィートな愛の、たったひとさじが
オレの魂を満足させたんだ

それについてのウソをつくヤツもいる
そえに泣くヤツもいる
それの為に死ぬヤツもいる
みんなひとさじの為に争っているのさ
そのスプーン、スプーンひとさじにね

珈琲のひとさじでよかったんだ
紅茶のひとさじでよかった
お前らのスィートな生活のたったひとさじで
オレには充分ってワケかい?

(コーラス)

水のひとさじでよかったんだ
お前を不毛な砂漠から救うには
オレのアルコールのほんのひとさじで
お前を他の男からすくえたんだ

(コーラス)


  • Blues Project : anthology

 これはライブ・テイクの歌詞。 最後に最初の節が繰り返されているのは多分にライブのせいだろう。 さすがにニューヨークの名うてのミュージシャン・バンドだけあって、アイドル・バンドのような青臭い歌詞にはなっていないが、逆に面白みには欠けるかもしれない。 ここでの forty-five(45口径) ってのは、どうも男性器の意味で使われているような気がする。 とするとスプーンの上の液体はってことになるが・・・

Well, could be a spoonfull of diamonds,
Could be a spoonful of gold.
Just one spoon of your precious love
satisfied my soul.

they are lied about that.
some of them cries about that.
some of them dies about that.
Lord everybody's fightin' about that.
That spoon, that spoon, that spoonful .

Well, could be a spoonful of coffee,
Could be a spoonful of tea.
just a one spoon from your precious love
yeah, good enough for me?

Chorus

Well, could be a spoonful of water,
Save you from the desert sands.
just one spoon from my forty-five
Saved you from another man.

Chorus

Well, could be a spoonfull of diamonds,
Could be a spoonful of gold.
Just one spoon of your precious love
satisfied my soul.

Chorus

そうさ、ダイアモンドのひとさじでよかったんだ
黄金のひとさじでよかった
お前の貴重な愛のたったひとさじが
オレの魂を満足させたのに

ヤツらはそれに欺かれている
それに泣いているヤツもいる
それの為に死ぬヤツもいる
なんてこった、みんなそれの為に争ってるんだ
そのスプーン、スプーンひとさじにね

そうさ、珈琲ひとさじでよかったんだ
紅茶ひとさじでよかった
お前の貴重な愛のたったひとさじで
オレにはそれで充分だったってかい?

(コーラス)

そうさ、水のひとさじでよかったんだ
お前を不毛な砂漠から救いだすには
オレの45口径からのたったひとさじが
お前を他の男から救えたんだ

(コーラス)

そうさ、ダイアモンドのひとさじでよかったんだ
黄金のひとさじでよかった
お前の貴重な愛のたったひとさじが
オレの魂を満足させたんだ

(コーラス)


 ところで http://blueslyrics.tripod.com/blueslanguage.htm#spoonful にブルースのスラングとして spoonful の意味が載っていた。 これはいい参考になるハズだ。 以下はその(勝手な)抜粋と、少し大雑把な訳文。
1 - Andy James wrote: "I'm fairly positive it usually refers to cocaine (BH: or heroine) in the earliest songs. That is, in "Before the Blues" (Yazoo 2016) Don Kent notes of Charley Jordan's "Just a Spoonful" that it is "a raggy tune, probably from around the turn of the century, celebrating cocaine." 1 - Andy James の書くところによると:  最初期の唄ではそれは通常コケイン(またはヘロイン)を意味していたのに殆ど間違いないと思う。 その理由として、"Before the Blues"(Yazoo 2016) の Charley Jordan の "Just a Spoonful" についての Don Kent のライナーノーツには「raggy な旋律、多分世紀の変わり目頃のコケインを賛美している」と書かれている。 
The secondary meaning of spoonful - that is, the rough amount of male ejaculate - gave The Lovin' Spoonful their name. (BH: they took their name from the Mississippi John Hurt song "Coffee Blues" that contains a line that strongly supports this secondary meaning "I wanna see my baby 'bout a lovin' spoonful, my lovin' spoonful") By the time Muddy Waters (BH: probably meant Willie Dixon who wrote the song Spoonful in the late fifties, performed by himself and Howlin' Wolf) had got a hold of the word, I think it began to have that meaning. But when Charley Patton says he'll kill or go to jail for a spoonful, I think it's cocaine (BH: or heroine) he's talking about." Thanks to Andy James for this contribution; spoonful の二番目の意味として − それは男性の射精の下品な意味だろう − The Lovin' Spoonful の名前の元になった(彼らは Mississippi John Hurt の"Coffee Blues" に含まれている二番目の意味を強烈に意味している"I wanna see my baby 'bout a lovin' spoonful, my lovin' spoonful" という節から自分達の名前をつけた)その頃 Muddy Waters(多分後の50年代に Spoonful という曲を書いたWillie Dixon に出たったが、後に自身も Howlin' Wolf と一緒に演奏している)がその言葉をおさえていて、思うにそれがその意味の始まりだったろう。 しかし Charley Patton が「彼が人殺しをするか、それとも spoonful のために監獄にいくか」と言う時は、思うにそれはコケイン(またはヘロイン)の事を彼は語っているのだろう。 (Andy James のこの貢献に感謝)
2 - a spoon was/is used by addicts to liquefy heroine so it can be injected into a vein;

2 - スプーンは中毒者にはヘロインを溶かして血管に注射する為に使われている(いた)。

3 - a vague blues euphemism for sex. Possibly derived from "to spoon" meaning: to make love by caressing, kissing, and talking amorously.

3 - 曖昧なブルースのセックスを表す婉曲表現。 あるいは"to spoon"(意味: 優しく慰めて、キスしながら、そして恋愛を語り合う性交)から由来したのかもしれない。

 さてこういう情報が入ってくると、また歌詞の読み方が変わってくる。 つまりベースになった Charley Patton の spoonfull blues では spoonful がコケイン/ヘロインを意味したのに対して、Howlin' Wolf の spoonful ではそれが男性の精液の意味を併せ持ってきたってワケだ。 とすると Blues Project の「45」の扱い方もすごく正統的ということになる。 つまりそんなダブル/トリブル・ミーニングの歌詞ってワケだ。 Willie Dixon ってヤツはタダのボクサー上がりのミュージシャンではなさそうだ。
 ちなみに今日 Willie Dixon/I am the Blues を見つけた。 さてそこに入っている Spoonfull は...これは Howlin' Wolf のもう一つのバージョンを確かめてから書く事にしよう。 イヤ・・・謎解きはマダマダ終わっちゃいない・・・
by seven 22002.Nov'19