3,May.05 (火) 14:45
 J.Dは憂鬱だった。

 もうすぐ初のU.S.ツアーだってのに・・・ここ数日は最低だ。 ベルギー女といちゃついてるところに女房が現れたのはほんの数日前。 といってもこっちは錠剤の過剰摂取で気もまばらだったんだが・・・気付くと赤ん坊と一緒に実家に帰っちまった。 オレが彼女とそんな仲だってのは知ってたくせに、アイツの返事は離婚届け。 いいともこんなものいくらでもサインしてやるさ。 でも今じゃなくってもいいだろ・・・

 そうともチャンスってやつは不安も伴う。 それが大きければ大きい程にね。 しかも相手は未だにカウボーイハットにカントリーを聞きながらハンバーガーを頬張ってる様な連中だ。 オレの唄を理解できるだろうか。 200年間、黒や赤の女を手篭めにしてきた連中だぜ。 尊いアーリア人の血はとうに薄れて、みんな私生児の群れさ。 確かに金は持ってる。 だが、ついでに腰に自分のイチモツよりおおきなガンをぶら下げて・・・そんな雑種どもの血がどう反応するかなんて、考えただけでもゾッとする。

 J.Dは憂鬱だ。 そうとも今までだってずっと憂鬱だった。 おふくろはオレを生む時代を間違えたんだ。 もっと過去か、それとももっと未来だったらよかったのに。 チェンバレンは間違っていない。 チャーチルがすべてを台無しにしたんだ。 そして未だに過去の栄光から目覚めない年寄りども。 ユダヤ人の飼い犬さ。 そして今オレはヤツラが影で支配する現代のローマ帝国に出稼ぎって訳だ。 この矛盾、屈辱感は口の中で砕く錠剤より苦いぜ。

 視界にぼんやりと電源コードが映る。 そうだあれを天井からぶら下げて、首を吊っていたのは誰だったろう。 昔見た映画? それともTVドラマ? ヤツは逃亡者だったろうか? それとも殺人鬼に追い詰められた被害者? 肉屋の冷凍庫の七面鳥の様にぶら下るソイツは、苦しみで目を怒らせカメラをにらみつけ・・・だがそんなわけはない。 死体はナニも見つめはしない。 ソイツがオレで、カメラが女房だとしても・・・

 J.Dは正しかった。 翌朝やって来た女房は、彼を一瞥すると荷物を取りに来たと押し黙った声で告げると、自分の部屋へと向おうとするのだが・・・その返事が無い事が気になって、再度彼に振り返り・・・そこで初めて彼の異変に気づく始末。 勿論J.Dの知った事じゃない。 だって彼はとうに冷たい七面鳥だったのだから・・・