1,Dec.05 (木) 00:45
 R-15は今、この予期せぬ状況についての判別を計算するのに、ほとんど過負荷寸前だ。
 純粋なアシモフ系ロボットである R-15 にとって、人間を害さない事は当然の第一命題である。 厳重なプロテクションがかかっている為に、たとえ所有者の命令といえどもその種の命令には従えない。 しかし同時に所有者の命令は絶対である。 第一命題、すなわち人間に害を為さない限りは、それに従わなければいけない。
 さて今朝受けた命令は、この屋敷内に侵入する生命体は、たとえアリといえども全て駆除しろというものだ。 過度の自然保護により増加した野生動物から私有財産を保護するという名目で最近、所有地内からの排除が州法で許可された。 しかし前日のイノシシの花壇荒らしの被害に怒った R-15 の所有者である老婦人は、老人特有のせっかち性から、それ以上の処置を望んだ。 つまり二度とこのような被害にあわない為に、そのような野生動物は消去してしまえというのだ。
 そして今R-15の前の雄雌のつがいと判別される生命体がいる。 どうもイノシシではない。 しかもその形態、すなわち骨格及び体積は人間種に一致する。 しかし同時に判別式の不確定要素もこれらの形態にある。 なぜならこれらには通常の人間種の身体をおおう繊維質の皮膜がない。 しかも計測される心拍数、及び排出される二酸化炭素量は異常だ。  R-15 にインストールされた介護用医療ソフトの計測した数値は明らかに人間種の生存範囲を大幅に逸脱している。 どちらかといえば前日記録したイノシシのそれに近い。さてこの未知の生命体を人間と判別すべきなのだろうか、それとも・・・
 翌日、昼下がりになっても到着しない息子夫婦を気遣った老婦人は、庭に出て花壇の手入れをしようと思い・・・その手前の芝生に散乱する衣服に気付いて R-15 に尋ねた。 「昨夜だれかここに入り込んだようだね?」 R-15 は答えた。 「いえイノシシと思われる生命体以外の侵入はありませんでした」 老婦人はちょっと不安な面持ちで再度 R-15 に尋ねた。 「それでそのイノシシをどうしたの?」 ・・・はい、ご命令通り消去して、その残骸は今朝のスープの出汁にしましたが・・・