18,Dec.05 (日) 07:45
 現代人が『文明は進化する』と考えるのは、バブル以前の投資家の『土地/株は値上がりする』と同様に『迷信』でしかない。 歴史から文明の衰退の例はいくらでも拾える。 現代だけは例外といえるだろうか。 この高度に知識が集積された社会ですら衰退の道をたどるとは、にわかには信じがたい。 しかし、だからこそ危いのだ。
 現代ほど情報に価値のある時代はない。 もし他より先に情報が得られるなら、それは常に勝利を意味する。 証券会社の誤操作から一部の株投資家は億単位の利益をえた。 その情報を他より数分/数秒先に知りえた事が、その利益を生んだ。 なにも特別な事ではない。 現代の市場において情報は『金』なのだ。
 そして社会はネットという通信資源を発達させた。 大量のデータがその上を流れ、これまた情報であるコンピュータ・プログラムがそれを解析する。 コンピュータは現代に欠かせない道具(ハード)だが、そのアプリケーション(ソフト)なくしてはタダの箱だ。 MSのビルゲイツが世界一の資産家なのは、MSがソフト会社だからだ。
 さて、これほどに情報に価値がある時代において『情報の専有化』は必然だ。 なので現代の情報/知識は誰でもが自由にアクセスはできない。 IT技術者はアプリの使い方は知っていても、そのソースは知らない。 アプリ・プログラマは、OSは知っているが、その実装は知らない。 OSプログラマはコンピュータは知っているが、その回路設計は知らない。 回路設計者は使用するチップは知っているが、その製造方法は知らない。 つまり現代文明とは、このブラックボックス化された部品を幾層にも重ねあわせた上に成り立っているのだ。
 ところで企業とは効率を求めるものだ。 新たに投資をする時は、それに見合った利益を求める。 ここ数十年間コンピュータ業界は飛躍的な発展をとげてきた。 例えばCPUはいまや数GHzで動いている。 これだけ周波数が高くなるとCPUの内部は殆ど核分裂に近いエネルギー量になるという。 つまり力ずくでCPUの処理能力を上げるには限界に近づいている。 もしCPUがこれ以上速くならないとすると、困るのはソフトウェア業界だ。 実はここ半世紀ほどソフトウェア技術の革新的進歩は殆ど無い。 CPUの処理能力の向上のおかげで不可能を可能にしてきただけだ。 今まではそれで十分だった。 だがそうではなくなった時、企業はより多くの投資を行うだろうか。
 神話では、バビロンの塔が余りに高くなったのを見て不快に思った神様は、人間の言葉を分けてお互いの意思疎通が出来ないようにしたという。 同じ事がおきるかもしれない。 コンピュータ業界に新たな投資がなされないのなら、既存のものをメンテナンスするしかない。 しかしそれは殆どがブラック・ボックスの部品だ。 確かに簡単にコピーはできる。 しかし元があればという前提でだ。 古くなったカセット・テープはノイズだらけでも聞くことは出来る。 しかしカビついたCDではエラーになるだけだ。 つまり All or Nothing だ。 もしかしたら1世紀後の人間はこの時代のことをナニも知らないかもしれない。 なぜなら殆どは紙ではなくデジタルな符号の上に書いているのだから・・・