17,Feb.06 (金) 17:41
音、そう音だけが・・・
誰がピエロをここに連れてきたんだい。 みんながヤツをそんな眼でみている。 包囲された都市。 誰もが息苦しさの中であえぎ、きみだって何時隣人を敵に売るかわかりはしない。 みんな疑心を研ぎ澄まし、毒グモのアミをはりめぐらせて・・・なのによそ者のヤツときたら・・・
オレはアイツを知ってるぜ。 パブのオーナーがテーブルの上のスコッチを勝手に自分のショットグラスに足しながら独り言のようにつぶやいた。 そうともまた来やがったんだ、あの疫病神が。 オーナーがグラスでクチを湿らせるのを眺めながら、隣の常連客が応えた。 それってあの偽善野郎のことかい? そうともみんながだまされたんだ。 常連客も眼を向けて・・・そうか、それがアイツかい。
ひそひそ話しが店の中を駆け巡り、店中の男がヤツをひそかに観察しだす。 なのにヤツときたらそれに気付きもしないで呑気にテーブルにアゴを乗せてウェイターが注文をとりにくるのを待っている。 時として無神経は傲慢と誤解されやすい。
最初にちょっかいを出したのは後ろの席に座ってた青二才。 ワザと振り向きざまに肩をぶつけると、手の平の上のアゴがテーブルの上に落っこちて、店の中に苦笑が淀む。 オイ気をつけろよ! と声を荒げたのは青二才の方。 ヤツはキョトンとしたままテーブルの上の頭を少し下げ・・・今度はもう少しあからさまな嘲りの笑いが店中を満たした・・・みろよ、とんだ臆病者だぜ。
さすがに自分の状況に気付いたか、ヤツは周りを眺め回すと、軽薄な笑いを浮かべ・・・今度は店中が静まり返って・・・なおもニヤニヤしながらナニか大声でみんなに話しかける。 ヤツは一体ナニを言ってるんだ? 聞いたこともない言葉だぜ。 悪魔の呪文じゃねえのか? みんなの緊張が一気に高まりだして・・・
それをみんなが注目していると勘違いしたのだろう。 良くみえるように大きなゼスチャーで両手を広げると、次に右手を自分の上着の中に滑り込ませようとして・・・その瞬間、銃声が響く。 ヤツはキョトンとしたまま床に崩れ落ち、後ろには忌々しそうな青二才が45口径を手に立っている。 こいつ銃を抜こうとしてたんだ。 そうとも撃ち殺すしかない。
うつぶせの体に渋々近づいたオーナーは、ヤツが即死だった事を確かめ・・・ウェーターに死体を片付けろと吼えると、頭をふりながら・・・おいお前さん、ポリスが来る前にヤツの手のものをその45口径と取替えといてくださいよ。 青二才は事情が飲み込めると少し顔を青くしながら45口径をウェイターの手に渡して・・・
さてさてオーナーはみんなを見渡すと・・・紳士諸君! 今夜ここで起きた事はその外国人が突然銃を取り出そうとした瞬間に銃が暴発したんだ。 それに間違いないですな! みんなはヤレヤレって顔で自分の席に座り込むと、ウェーターがヤツの手の中のモノと45口径を取り替えているのも気付かぬフリをしながら自分のグラスを舐め始め・・・
だから言っただろ、みんなヤツに騙されるなって・・・さっきまで居た席にゆっくりと戻りながらオーナーは隣の席の常連客に愚痴た。 思ったとおりの疫病神だ。 常連客はニヤリと笑いを浮かべると・・・それでヤツはナニを取り出そうとしたんだね? オーナーは常連客の耳元にそれこそ消える様な声でつぶやいた。 笛さ、ウソを吹きまくる為の笛。 常連客は再度笑いを浮かべると・・・成る程、それじゃ死ぬしかあるまい、それじゃね・・・