復活 |
安息日が明けたばかりの早朝からこんな仕事を押し付けられるだなんて・・・ |
三人の若者たちは愚痴をこぼしながら丘を登っていく。 数日前に総督閣下から呼出された彼らは、地元民にみつからないように、安息日の間にその仕事を片付けるように命じられていたのだが・・・ しかしこの国の神の掟を破ってまで命令に従うことはないだろう。 いや本当は掟を破ってでも家でごろ寝をしていたいだけなのだが・・・しかし総督に逆らうわけにもいかず、しかもこの仕事は他人に知られては不味い。 それこそ騒乱が起きかねない。 それじゃ自分達の首も危うくなる。 でなきゃこんな夜明け前に起き出したりはしないのだが・・・ |
丘の上の横穴式の墓には、その入り口をふさぐ巨大な円形の石が置かれていた。 まいったね。 まったく金持ちのやる事はわからない。 罪人の死体を引き取るってだけでも奇特だが、こんな立派な墓に埋葬するだなんてどうかしてる。 おかげで大仕事じゃないか。 確かこいつは反逆罪で磔刑になったんだろ? そんなヤツは十字架の上で鳥の餌ってのが相場だぜ。 しかし、だから総督がお怒りってワケさ。 犬の餌にしちまえだなんて、よっぽどプライドが傷ついたんだろうね。 ウム、あのお方に恨まれちゃ死んでも許してもらえないってワケさ。 |
とにかく女の身体以上に重いモノなんて持ったことの無い三人だ。 ただ押したんでは一向に動く気配がない。 なんとか図太い木材を見つけてきて、それをテコに石の扉をどかしたが、その時には、すでに朝陽がさしだしていた。 死臭漂う墓穴の中にいやいやながら入り込んで、さて死体を三人で担ぎ出そうとした時 |
外で女の驚きの声が響いた。 |
慌てて手を離した二人が外を覗くと、少し年増だが充分に魅力的な女がひとり、怖々と墓へと近づいてくる。 不味いね、殺るかい? いや仲間がいちゃ困る。 とにかく今は隠れようと 二人は墓穴の横隅の影に忍び込み、可哀相に死体を一人で担がされた若者は一番入り口手前の壁に死体と重なって立つ格好になっちまった。 どうせ女だぜ、まさか墓穴の中にまでは入ってこないだろう。 |
ところが外から覗き込んだ女は、先程まで死人が横たわっていた辺りに、粗末な麻布が一枚だけ取り残されているのを見つけると、急いで駆け込んできてその麻布を胸に押し付け声を上げて嘆き悲しみだした。 ご主人様は一体どこに行かれたのでしょうか? わが愛するご主人様は・・・ するとその瞬間、偶然にも墓穴の中に朝陽がさしこんだ。 反射した光に、両脇にいる二人の若者の姿が浮かび上がったのだが・・・ |
彼女は驚き座り込んでしまった。 二人を見上げながら、なにか泡を吹くようにワケのわからない言葉を上げているのだが・・・ その顔は怖れからではなく神秘的体験に遭遇した時の驚きのようだ。 二人が顔を見合わせて唖然としていると、急に入り口付近からガチャンと大きな音が響いた。 一人で死体を担いでいた若者が香台を倒してしまったのだ。 振り返った彼女が見たのは朝陽の逆光に浮かび上がった死体だった。 それは勿論若者がささえていたのだが・・・ それを見た彼女は尚も驚きの声を上げると同時に大急ぎで外へと飛び出していった。 やはりナニかワケのわからない事を大声で叫びながら・・・ |
後に残された三人は、こりゃ不味いと顔を見合わせる。 やっぱり女をすぐに殺すべきだった。 いや、とにかくここをずらからねば。 急いで三人で死体を抱え上げ墓穴から出ると、女の駆け去った方角とは逆方向に急ぎ足で逃げ出した。 |
総督閣下にはなんて言えばいいんだい? いや知らん振りするしかないだろう。 しまった墓石を閉めておくんだった。 今から引き返すか? とんでもない。 とにかくコイツを野犬の群れに放り込むのが先。 後はそれから考えるしかない・・・ |
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マグダラのマリアが狂人の様に騒ぎながら隠れ家に走り込んできた時、ペテロは逃げそびれて未だエルサレムに残った弟子仲間達とどこに逃げ出すかの相談をしているところだった。 |
大変よご主人様が生き返られたのよ。 ナニを馬鹿なことを言っているんだ。 いえ本当なのよ。 |
タダでさえローマの兵隊が来ないかビクビクしてるってのに、こんな狂気女が大声を立てていたんじゃ危なっかしくて仕方ない。 とはいえイエス様の寵愛を受けていた女だ。 クチを押さえ込むわけにもいかんだろう。 わかったよ、ちゃんと聴いてやるから、少し声を小さくしてくれないかい。 |
マリアは話しはじめた。 |
わたし、イエス様が十字架から下ろされた時に充分に香料で身体をお包みできなかったので、今朝残りの香料を持ってお墓に行って、誰かがあの大きな墓石をどかしてくれるまで待っていようとおもったの。 でもね行ってみるとすでにあの墓石が横にどけられていて、墓穴が開いてるじゃない。 驚いて中を覗いてみるとわたしがお寝かせした場所には麻布が一枚置いてあるだけ。 |
驚いたわたしは、誰かが死体を持ち出したんだと思って、中に入り込むと大声で神様にイエス様をお返しくださいと叫んだの。 するとどうでしょう。 突然墓穴の中が光に包まれて、わたしの両脇にそれは神々しい方々が立っていらっしゃるじゃない。 すぐにそれが天使様たちだとわかったわ。 それで聖書の言葉でどうかわがイエスさまをお返しくださいとお願いしたのよ。 と突然入り口辺りで天から雷の落ちて来たような音がして、驚いて振り向くと、そこには光につつまれたあの方がいらっしたのよ。 そう、あのイエス様が・・・ |
こいつは面白かもしれない。 ペテロはこころの中で呟いた。 彼が一番怖れていたのはガリラヤに残してきた宗徒達だ。 なにしろあの晩イエスにどんな事があっても裏切らないと誓いを立てたというのに、実際にはローマ兵に囲まれた時に最初に逃げ出しちまった。 ましてや教団の金銭を預かっていたユダは常にペテロの競争相手だった。 宗徒達がユダの離反、そしてイエスの処刑の原因をペテロのせいしないかと内心怖れていたのだ。 しかしイエスが生き返ったとすれば話しは別だ。 |
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それはまさに奇跡だ。 |
そうだガリラヤへ帰ろう。 ペテロは大声で弟子仲間に宣言した。 生き返られたイエス様が行かれる場所は何処だ。 そうともガリラヤだ。 イエス様はそこで我々をお待ちになっていられるに違いない。 |
弟子達の顔色が一瞬に輝いた。 |
さて何処かでイエスのそっくりさんを用意しなければ・・・ |