depression


哀しい時は憂鬱の種を打て
憂鬱の時は悪夢を切り刻んでやる
悪夢にうなされた時は目を醒ませばいい
そしてひとり起き上がった寝床で
ためいきをついてやる

楽しいことなんて絵空事さ

おもいっきり繊細で
そのくせおどろくほどにタフな
この病んだ神経系統に乾杯 !
酩酊に罪があるとすれば
きっとヤツの暴走を
後押ししちまうことかもしれないね

絵空事だもの、好きにやるさ

宿酔いの朝、脂ぎった頬のうえ、チクチクする無精ヒゲをさすり、かすむ眼をこすり、脱ぎ捨てたジーパンを手探り、そうだ腕時計はどこに置いたっけ ? 今日の仕事からのエスケープを悪巧み、電話までの距離を測る。

「オイ、らりは、見損なったぜ… 」
ほっといてくれ、おれにだって休みは必要なんだ
「それは何かを為したヤツのセリフだね… 」
うるさい ! 今さら何をやり遂げろっていうんだ
「もう時間が無いってかい ?」
かもしれないね
「やけに諦めがいいじゃないか」

まったく…
時々お前が悪魔に見えてくるぜ

明け方から吹き始めた風は
看板や鉢植えを引き倒し
路上にはアスファルトの上の砂埃り
ゴミ収集車の置き忘れていったスーパーのチラシが舞い
通り過ぎる車は順番にそのゴミの風柱を避けていく

こんな日は仕事なんてしちゃいけないよね

やっと来たバスに御婦人達に続いて乗り込むと
花粉にムズムズしだした鼻をハンケチで押さえて
一番奥の座席に乗り込む
どうせ終点で降りるんだもの、いそぐことはないさ

数人ほどの
乗客の中の
孤独…

昨夜つまらないままにTV をながめてた
ヒロインのナレーションが延々と続くストーリー
こんなにイイ人間なんているのだろうか
あまいんだよ
ソラ、いわないこっちゃない
それでも前向きに語りかけるヒロイン
まったくオレをサディストにさせたいのかい

たまらずリモコンのスィッチでTVを消すと
真っ暗な部屋の中にひとり
ウィスキーのグラスをかかえた自分が居る

誰かがこころの中でナレーションしてる
こいつを殺せ
オレのストーリーを汚すんじゃない
誰かがストーリーをナレーションしてる
オレの時間を汚すんじゃない
ウィスキーをあびせて酔っ払わせてやる
ヤツは饒舌に語り続ける
こいつを殺せ
オレの生き方を汚すんじゃない

オレはオレのナレーションを続け…

バスは停まる

終点で降り行くヒトを見送りながら
最後に席を立ってステップを降りると
風に運ばれた花粉に鼻が反応して

わたしは大きなクシャミをした

脳みそが耳から飛び出し
こころは眼から抜け出して
憂鬱は鼻から零れ落ち
口は失った酸素を取り戻すことさえ忘れ

さて急がねば

わたしは駅の階段へといそぐ…


by seven 22Mar2000