gram 4 life


刑事はAの目の前でおもむろにポケットからプラスッチックのプレートとなんだか得体のしれない溶液を取り出し

さっき見つけ出したパケから、しみったれたみたいにこびりついている白い粉をプレートのくぼみに上にこすり落とす。
「最近はこんなで判定ができちゃうんですよ」
目では笑ってるみたいで、そのくせ真っ直ぐにAの目を見つめながら・・・ Aにはもうそれが死刑宣告であることにかわりはない。
彼女は隣の部屋で取り調べを受けている。 ガサ入れとわかった瞬間に彼女がしたことくらいは想像がつく。
彼女は自分の部屋にちいさな冷蔵庫を持ち込んでいる。キッチンには肉体の栄養のための大型冷蔵庫、そして部屋には精神の為の・・・ ドアにはいつも鍵がかかっている。Aには計り知ることしかできないが、彼女がそれを最後のショットの為にすべてをスプーンの上で水に溶かし込んだことは想像がつく。
グラム、あと1グラム・・・
そろそろ次の禁断症状の時間が近づいている。なんでそれが充分な量の間に終わらせちまわなかったのだろうか・・・いや、至福は簡単な算数の問題だ。それがあるあいだは、それにこころをうばわれていて、無くなってしまった瞬間に地獄が待っている。すべてはグラムの問題だ。グラム。あと1グラムあれば・・・
もう一度あの歌をうたってよ。今が最後のチャンスかもしれない。僕らが冒険者だとしたら、それをアルゴルの山肌に刻みつけよう。僕らが遭難者だとしたら、それを北海の海底に眠る財宝としよう。そうだね、最初からなんにも持っていなかった。過ぎ去った今に別れを告げるときが来た。僕らは選ぶ前にそれをはじめてた。今がそれを選ぶ時・・・あと1グラム・・・

護送車の中でAは彼女に見とれている
白い肌に浮かび上がる静脈
閉じられた目が語っているのは彼女の至福と、明日への拒否

なくす事なんて簡単だ。 ただ自分を否定すれば済むこと
でもなくした後のことなんて、Aには想像することもできない
あと1グラムあれば済んだことなのだから
あのヤボな刑事があと1グラムめぐんでくれれば

Aは今日も拾ってきた獲物とベッドの中
人間って恋するために生きてんのかな
「うん、そうかもしれないね」
・・・・


FSAを聴きながら by seven 9,Feb'00