JuJu cracked...


JuJu は壊れてる
誰が壊したわけじゃないけど…

或る日こころの破片を細身の身体にもてあましながら
彼女はやってきた
「JuJu どうしたの?
まるで世界の終りみたいな顔してるじゃない」
もつれた髪を人差し指でクルクルまわしながら
「だってわたしにはUFOがみえないの」
JuJu は彼と、そして彼の新しい恋人の三人でくらしている
「まともなヤツは誰もそんなものみえやしないよ」
「だって UFO は見えなきゃいけないの」
「キミのまわりがメチャなんだよ
もう彼のことはあきらめたらどうだい?」
「……」
急に上を見上げたまま
誰にいうでもなく JuJu は小声でつぶやく
「わかんない… 誰にも…」

JuJu のこころにいつから狂気が住み着いていたのか
ただ知り合った頃のイメージは知的でもの静かな女性だった
黒で塗りつぶされた装飾の部屋の中で
わたしと彼とが音楽の話題をしているときも
ただ微笑んで彼の横に座っている

彼は芸大を出てからも親の仕送りで生活してるような男だが
最近は世界の終りが訪れる時にUFOが助けにきてくれるとかいう
カルトな集団に熱中している
UFOを観察しに行くといったまましばらく行方不明だったのだが
ある日新しい恋人を連れて戻ってきた…
そして恋人のおなかには彼の赤ちゃんが宿っている

どんな話しが三人の間で行われたのかは想像するしかないが
それでも JuJu は彼と別れることより
彼と彼の恋人の二人と同居することを選んだ…


最初に JuJu の異変にきづいたのはやっぱり彼だ

仕入れた錠剤が次々に隠し場所から消えていく
家の中を調べてみると JuJu の部屋のテーブルに
開けられたタブレットのカラが散乱……
問いただしても何も答えない JuJu に
多少のうしろめたさもあったのか、彼はそのままにしておくことにした

隠し場所を変えたので、その後錠剤が消えることはなくなったが
ひごとに JuJu の様子がかわりはじめる
以前は友人とすら話すことのすくなかった JuJu が
庭の掃除をしながらお隣りさんと天気の話しをしていたり
何も聞こえていない様子のまま階段に腰掛けつづけていたり

出産の近づいた彼の恋人も不気味に思い始めたのか
臨月の前に彼と一緒に実家に戻ってしまう


それから数日して
JuJu は町じゅうのお店や友人の家に行っては
彼が来なかったか訪ね歩くようになっていた
「彼がいないんです… 彼をみかけませんでしか?」
その頃にはみんな JuJu のことはウスウス感づいていたので
ただ首をふるだけで、とりあおうとはしなかったのだけど

下心をもった男がひとり JuJu をモノにしたくって自分の家に連れ込んだ
といって強姦する勇気もない
「これを飲めばこころがやすらぐよ」
ってかなり強力なドラッグを手渡したらしい
幻覚の中をさまよっている間にやっちゃえば
彼女も気づかないだろうって魂胆だったのだろうが…

意気地なしの電話で駆けつけた救急隊員が発見したのは
割れたワイングラスの破片を手に
カーテンや服を次々に切り裂いていく

狂気の JuJu だった


精神病院の隔離病棟に入れられた JuJu は
それでも半年後には退院して
また彼と彼の恋人そしていまやこの家の主ともいえる
赤ん坊のいる家にあらわれる

でももうそこには JuJu の場所はない

ドアの前で泣いて懇願する JuJu を
彼と彼の恋人は耳をふさいで無視するしかなかった
結局 JuJu はそれいらい皆んなの前から姿を消してしまう


どれくらいの年月が経った頃だろうか
たまたま仕事先に向かうバスに乗っていたところ
途中の病院前のバス停から黒服に身をつつんだ女性が乗ってきた

見覚えのあるその姿に一瞬顔を覗き込んだのだが
そこにあったのは最初に会った頃の
あのおだやかな JuJu の顔だった

しかし彼女はそんなわたしに気づいたふりもせず
わたしの隣りの空いた座席に座ると
昔と同様に両手をひざに組んで黙ったまま下を向いている

人違いかもしれないと迷っているままに
わたしの降りるバス停が近づいたので停車のボタンを押したのだが
その瞬間 JuJu は組んでいた右手でわたしの頭髪を指すと
大声で 「あ! おかっぱ頭だ… おかっぱ頭…」
と笑い始める

やっぱり JuJu だった
しかしわたしに気づいているワケではなさそうだ
バス停に降りて過ぎていくバスの中で
また黙ったままの姿勢で座っている JuJu を見送りながら
わたしは仕事先へと歩きはじめる

どっかに逃げ場はないのかい
なんて考えながら…


15,Dec'99 by seven