at Piccadilly Circus


「おい、ここはヤパイからさけようぜ!」
「なに? ビビッてるの?」

バカメロ、おまえはいざとなったらマタを開いてればいいんだろうが、こっちは顔にイッパツお見舞いするか、されるかしなきゃいけないんだぜ

「ああ・・・そうさ・・・」

大体歳末から新年にかけてロンドンに旅行に行こうなんて思うんじゃなかった。 ヨーロッパ人は休む時は休むんだ・・・何かあるかってピカデリーサーカスまで出てきてみても、おもしろそうな店は全部閉まってて・・・

でやっとみつけたディスコはタイ着用で、それも入り口で俺達同様に行き先にあぶれた中近東系の数人が店員と入れろ、いやダメだともめている

こんなところに日本人がアベックで(それも俺はそんなにいいみなりじゃない)そのさわぎに加わろうだなんて・・・どうみてもあまりいい考えじゃない

ところが彼女ときたら日本の女の特権で、どこにいってもチヤホヤされるものと信じきっている。 地球の半分じゃ今この瞬間でも人が殺しあってるって事、知らないのかよ・・・

なんとかなだめてタクシーでホテルに戻ると、彼女は疲れたからってベッドに入ってしまう

そういえば未だ暗くなってから、そんなに時間は経っていない。 それなのに俺ときたらアルコールの一滴もノドにとおしちゃいない。確か一階にショット・バーがあったっけ?

エレベーターで下に降りると、バーテンダーはカウンターごしに慇懃な声で客と話しをしてるが、俺がカウンターのはじの椅子にこしかけるとヤレヤレといった顔をして前にやってきた。

「何かお飲みになりますか?」
「I.W.HAPPER を with ICE で・・・」
「生憎ですが HAPPER はおいておりません、あれは野蛮です」
「野蛮?」

まったくイギリス人ときたら自分達の価値観以外は絶対に認めたがらない。しかたがないのでなんでもいいからスコッチをと頼むが、出てきたのは砂糖水にアルコールをたらしたみたいな舌ざわり・・・まあ酔っ払えば同じだが・・・これじゃその前にゲップがでちまうよ

部屋に戻ると彼女がボッとした顔でソファーに腰掛けている。

「ねえ、なんだか風邪ひいたみたい・・・」
「熱は?」

まいったね・・・彼女のバッグから(何故か体温計だけは持ち歩いてる)取り出して計ると38度もあるじゃないか

「風邪クスリもってなかったっけ?」
「いいよ、ホテルに置いてないか電話で聞いてみるよ」

そうはいってみたけど、電話に出たおネエさんにはこっちの英語が全然通じない。 仕方がないのでカウンタ迄降りていって事情を説明するが・・・ 彼女には Queen's English で話さなきゃ通じない

「俺の彼女が風邪(sick) なんだけど」
「thick ? それでどうしたんです?」
「でクスリ(pill) が欲しいんだけど」
「ピル?」

だめだ、こりゃ!経口避妊薬を欲しがってるとでも思ってるんじゃないのかね・・・

いいかげんにじれったくなって外で薬局を探す事にした俺は外へ出てみるが・・・只でさえ数日前に着いたばかりで土地感なんてありゃしない。 それに今は歳末だ。 店なんてどこにも開いていそうにない。

しばらく歩くと一軒インド系のオヤジのやってるヤオヤを見つけた。 こんな時は中途半端にわかりあえる方がいい結果を得る事があるもんだ。 オヤジは薬局はどこも開いてないけど、自分の持ってる風邪クスリでよかったら持ってけって、奥からクスリ箱をもちだして、1タブレット取り出して渡してくれた。

礼をいうついでに目の前の西洋ナシをひとつ売ってもらって、それを片手でキャッチボールしながらホテルへと戻る

「そのナシどうしたの?」
彼女はソファーにしずみこみながら TV を眺めている。 俺が親切なオヤジの事を話すと

「そう、でも果物ナイフもってこなかったね」

手の中のナシを霜の降りたガラス窓の前において、彼女のとなりに沈み込み・・・

「明日はなんとか起き上がれそうかい?」
「うん、このままあったくして寝てれば大丈夫だと思うわ・・・」

TVに顔を向けたまま・・・二人してそのままTVに見入りながら・・・でも何も見てないのかもしれないし・・・

俺はいったいここでなにしてんだろう?

そんな事考えながら・・・


12,Sep'99 by seven