ugly as old ...


で、それから M どうしちゃったの?
いや別に、どうってことないんだけど
最後に電話した時に
「もう君とは話したくない!」
ってだけで電話切られちゃってさ
何?それから音沙汰なしってわけ?
そういろいろあったしね
そうだね

三人は円筒形の石油ストーブを囲んで紅茶を飲んでる…手がこごえてるから両手をカップに回して、まるでその手をあぶるみたいにストーブにかざし…スピーカーからはさきほどこの部屋で演奏した音が流れ…

G はひざを組んで…自分の詩集をそのひざに乗せながら、ステレオの音にあわせて無音でくちずさみ… M はさっきまで叩いてたドラムのスティックを、今度は自分のひざ相手に打ち込んでいるところ… わたしは腕の中のギターのネックに少し温まった手を置きながら…

「ごめんよ、ここ少しリキんでみたくなったんだ」…時間はゆっくりと過ぎている。「そう悪くはないじゃん」…なんでこんなに落ち着いちまってるんだろう…「そう?それならいいんだけどさ」…網戸からの白い光が G の手元でゆれている…
受話器の中でビー玉がはじけた…はじけたビー玉は わたし のこころの中である懐かしい風景を魚眼レンズ風に映している。そうだよ…あれは随分昔しのことだっけ?…未だ時間が輝いていた時代だね…時間の女神様、あんたこのごろ少しトシマのゴーマンさを感じさせるよ…少ししか無い魅力を一番飢えてる男の前にぶら下げるみたいな…そうだよ、あの頃はあんなに魅力的だったのに、 わたし ときたら有り余る「時間」にうんざりしてて…どうすれば無駄使いができるかなんてことばっかり考えてた

わたしがあこがれをむけるモノとは
一瞬 G がつくりだすこんな風景になのかもしれない

数日後 G はベッドの中にいる

M のところに最近帰ってなにんだって?
うん、もうすぐあそこ出ようとおもって
なにかあったの?
…なにもないよ…
でも何故かつまらなくなったの
じゃあココにいれば?
…そうね今夜は泊めて…

時間は不確かな快感の中にある
みたされぬモノだけが得ることのできる
みたされた時間

なくしたものを見つけるのは簡単だ。
自分が普段と違った気分の時に
何をしてるかを思い起こしてみればいい

でも何をなくしたのかを見つけるのは大変だよ
そこにあるべきものがなくって
しかもそこには完全な無があるだけ
それがナニであったかを示す跡形すらない

翌朝わたしがコインランドリ−に行ってるあいだに
G はわたしの部屋から抜け出して
次の宿泊場所へと消えていた

置手紙なんて気のきいたものが
置いてあるわけではない
ただわたしが帰ってきたときには
手荷物とともに
G の姿も消えていただけのこと…

君が一番に欲しかったモノはナニ?
そう
何故わたしがここにいるのか
その理由
今朝君はそれを味わっていたじゃないか
そうだね
…でも…
もうテオクレって事もあるんだぜ

夜のバイトに向かう電車の中で
G が部屋に戻っている可能性を考えながら…
わたしはそれがまるで
『流れるままに次のステージに移る様子』
を眺めているかのように…
ただ電車のゆれに身体をよせている

中央線の車窓から差し込む夕日は車両の床をなめるように走っている
さっきまで待っていたんだもの
わたしも次をはじめることにするよ…


by seven 5,April200