叶えれない夢を
石鹸水に溶かして
溜め息でふくらますシャボン玉に

それを手の平の上でお手玉の替わりにして
パチン!

ホラ溜め息が
・・・

さあ今夜もまたマビノギオンを語ってくれよ
退屈は死神の仕掛けた罠さ
かなわぬ王妃への恋に身をやつれさせる方がマシだね

じいさんは手をふって
坊主、お前じゃ酒屋の娘っこだってモノにできないね
さあ大人しく腰掛けて耳を澄ますんだ
ホラ風の話し声が聞こえてきただろう

そうだ僕は耳に手を当てて、神経を集中しようと眼を閉じたんだが
確かに聞こえ出した風の話し声は
でもあっという間に世界を包む轟音となって
僕のこころを落ち葉の一枚のように飲み込んじまい
怖々声を上げようとするんだが
悪魔にクチをふさがれたように
吐き出した言葉がすぐに風に吹き飛ばされちまうように

・・・

 次に眼を開けた時、僕はオンナの寝床の中だった
見覚えの無い彼女は裸の背中を僕に向けて寝息を立てている
シーツの下の僕も素っ裸だ
あわててベッドから這い出して暗闇の中
手探りで自分の服を探すんだが
・・・
パンツひとつ見つかりやしない
明りを点けて探そうか
でももし彼女が眼を覚ましたら大変だ
さてどうしたものか

 だがしかし
どうしたワケで、このオンナとベッドを共にしているんだろう
そりゃ僕もいっぱしの男
娘達がほっとくワケがない
頭の中がグチャグチャに成ってきて
ついでに少しのスケベ心も沸いてきて
フトこの見知らぬオンナの顔を覗き込みたいっていう欲求が起きてきて
それを堪えきれなくなった僕は
再度ベッドに戻ると
そっと彼女の上をまたいで
・・・
その顔を覗き込んだんだが
・・・
 その瞬間、凍り付いちまった
彼女はまるで数千歳のようにシワクチャで
しかも半眼のまま寝入っている
これじゃ魔女だぜ
思わずヘタリ込んだ僕の尻がドスンとベッドに落っこちたもんだから
魔女はその揺れに眼を覚ますと
サイド・ボードのライトを点けて
・・・

 どうしたの、あなた?
また悪い夢でも見たのね
・・・
ああ、ゴメンよ
少し本でも読んでから寝る事にするよ
どうも今夜も寝付けなくてね

僕の返事に彼女はまたシーツをかぶって寝入ってしまい
僕は右手を伸ばして読みかけの本を取ると
ふと彼女の鏡台の中に映っている自分の姿と眼があって
そうだ、そのじいさん顔が僕に語りかける。

 どうだい、お前さんの王妃の物語は

叶えれない夢を
封筒に入れて郵便で送ろうと思いながら
でも今切手はいくらだろう
なんて事考えてたら億劫になって
引出しにしまったままの
僕の夢

・・・