言葉ってヤツは人類が最初に発見した精神安定剤でね
だから多用すると中毒症状が激しいんだ

ジニーのおしゃべりは止めどない
ボブの帰宅から夜ベッドで寝息を立てるまで
休みなく続く
最近じゃセックスの間でさえ
ソープドラマのストーリーを説明し始める始末
一度それじゃ集中できないよって文句をいったけど
黙っていたのはホンの30秒程度で
「だって今日経験した事すべてをあなたに伝えたいんだもの」


ジニーのおしゃべりは止めどない
しかもTVかラジオで流れていそうな情報ばかり
時にはボブを辞書替わりに
「ねェ、マイケルの前の奥さんって誰だっけ」
それからゴシップ記事の羅列が始まって
でもそれは昨夜も話してたじゃないか
「そうだったかしら? でもね・・・」
とお気に入りの司会者のコメントの話しが続き
ヤレヤレ司会者の名前は違うみたいだが
同じような話しは昨夜聞かされてる


ジニーのおしゃべりは止めどない
一度だけ訊ねてみたことがある
「でもキミはどう思ってるんだい」
ジニーはキョトンとして
「素敵じゃない、ステキ、そう素敵よ」
違うよ、オレはキミがなにをしたいかを聞いてたんだ
ボスにこき使われて、クタクタになって帰ってきて
さてやっとオレのしたい事が出来ると思ったら
すぐにキミの話しのお相手だぜ
こんなの不公平じゃないかい?
キミは持て余すだけの自由な時間
オレは溜め息もらす暇さえない。


ジニーのおしゃべりは止めどない
ボブが出て行ってから
話し相手はリビングのTV
これなら文句もいわれなくていいわ
それに何時に帰るかさえ気にしなくっていいもの
あら戦争が始まったの?
人間が死ぬなんてイヤよね
今夜の食事はナニにしようかしら
確かあと一時間程で午後の料理ショーだったわよね
今晩のゲストは誰なの?
あら知らない名前ね
でもイタリア風な名前だから、今晩はパスタかしら


久しぶりの出張から帰ってきたボブが家で発見したのは
居間のTVの前で眼を円くしたまま口をパクパクさせているジニーの姿
どう見ても気のふれた人形みたいだ
どうしたんだい、ハニー
確かに結婚してから仕事で出張したのは初めてだけど
たったの一週間じゃないか
しかも出かける時にはちゃんとそういったハズだぜ
で、ふとボブは思い出した
そういえば、あの時の彼女の返事は
「あら、新聞のTV番組欄が見当たらないわ・・・」