ドグはパブ中を見渡すと両手の平を小さく上げ
ヤレヤレ、どいつもこいつも
世の中が彼の道理で動いていないのは知っている
だがそれに同意する気はない
それで上手くいくならいいが、失敗しても連中が責任を取るとは思えない
同じ賭けなら自分に賭けろよ
他人任せは愚かってもんさ
ところがどうもいけない
連中の顔を見るのが段々退屈になりだした
どいつも自分の尻の拭き方も知らないらしい
ウォッシュレットじゃなきゃクソも出来ないような連中だ
そのクセ常識をふりかざして下手な議論を並び立てやがる
いいかい、コモンセンスってヤツは経験から得るものだぜ
お前さん達のは共有幻想っていうんだ
証拠に失敗ばかり繰り返してる
ところが連中は自分の失敗にも気付かないらしい
ジャンク・フードしか食った事の無いヤツには、それでもご馳走ってわけだ
二度失敗するヤツは馬鹿だが、馬鹿には失敗はない
だって上手くいく事がないんだから・・・


ロイはさっきからカウンタに肩肘ついた手でアゴを支えながら
靴先についた泥を見つめている
今ハンカチで拭いちまえば済む話しだ
でもそんな目立ったやり方は気が進まない
いつも他人の噂に耳を欹ててる連中だぜ
変な憶測をするだろう
別にやましい事はないんだが
連中を納得させる自信もない
といって、このまま泥をつけて家に帰るワケにもいくまい
女房は連中以上に疑り深いんだ
靴下を履く時でさえ注意が必要だ
もし裏に履いてたりしたら、帰ってから何処で脱いだんだと延々と問い詰められちまう
だがとすれば
この靴先もちゃんと拭き取る必要がある
でもこのハンカチでそんなにキレイに出来るだろうか
誰かに余分なハンカチを貸して貰おうか
がしかしどう説明するんだい
泥のついた靴を見ると女房が疑うからってかい?
それじゃ疑ってくれって言ってるようなもんだ
がしかし、この泥は・・・


カールは話しに熱中するフリを装いながら、トイレの入り口に注意を向けている
チッ!また先を越されちまった
大体なんて話し好きな連中だ
誰が株で儲けただとか、次はドレが狙い目だとか
お前さん達の筋書き通りに世の中が動いてりゃ
今頃このパブも株成金で溢れていそうなモンだ
ところがどうだい
俺様のフトコロは今夜のお相手を買う金にも困る始末
かわりに腹の中でトイレで放出されたがってるビールが溢れてやがる
これもヘタな冒険心に惑わされちまったせいだ
でなきゃ今頃は野朗共相手になどしているもんかい
人生が平穏無事ってのも困りもんだが
艱難辛苦ってのはもっとゴメンだね
がしかし
あの野朗トイレんなかでマスでもかいてやがるんだろうか
そろそろ出てきてくれなきゃ、俺の腹が・・・


次の瞬間
パブのドアを強引に開ける音が響き
急に店内が静まり返る

なんてこった!三人組の強盗がライフルを抱えて押し入ってきた

哀れなカールは驚きのあまりトイレで放出するハズの小便でズボンを濡らしちまい
愚かなロイは、これで女房に言い訳が出来たと笑い顔を、ふざけるなと強盗の一人に叩かれて
尊大なドグは落ち着こうとポケットの煙草を取り出そうとしたところを
ピストルと勘違いした強盗にライフルを
ズド〜ン!