キリスト ?
実はわたしは、キリストつまり英語の CRIST というスペルを、十字架を表す CROSS の連想から勝手にそれに類似した意味だと思い込んでいた。 そこで MS Bookshelf で調べてみると |
● キリスト (ポルトガルChristo元来ギリシアkhristos(油を注いで清められた者の意)に由来)〈キリシト・クリスト〉イエスの尊称。のちにはイエスその人をさす。耶蘇。イエス‐キリスト。 |
と載っている。 油というとつい石油を想像しがちだが、ここでの油はカンラン科の木から取れる樹脂などから作られる香油を意味している。 ちなみにヘブライ語のメシアも本来「油を注がれし者」の意味で、それがギリシャ語を経て christ (キリスト)と呼ばれるようになった。 |
ところでユダヤでは、サウルが預言者サムエルから頭に油を注がれて最初の王となってから、この「神に選ばれし者として油を注がれる」とは「ユダヤの王」となる事を意味していた。 実際に二代目の王ダビデもサムエルから油をそそがれている。 |
ところがその後ソロモンの黄金時代を過ぎると、イスラエル王国は南北に分裂し、やがて「バビロンの捕囚」として知られるバビロニアによる侵略を受ける。 また再度エルサレムを復興した後もソロモンのような黄金時代は訪れず、それどころかイエスが生きていた時代にはヘロデ王やアグリッパI/II世といったローマの傀儡政権や、ローマ軍総督による支配を受けるようになっていた。 |
つまりメシア(キリスト)という語は本来我々が想定する救世主という意味ではなく、ユダヤの王を意味していたが、イエスの時代には、それが再度ユダヤの黄金時代を復活させる者としての救世主という意味を持ち合わせていたものと思われる。 |
ここで思い起こされるのは福音書の記事、つまり逮捕されたイエスに時のローマ総督ピラトが尋ねた 「お前がユダヤ人の王なのか」 という言葉である。 実はこの時代のユダヤには偽メシアが何度も出現し、大抵は一騒動の後に鎮圧されている。 つまりイエスもピラトからそのような煽動者のひとりとして取り調べを受けたと考えていいだろう。 |
十字架の形状は十型だとだれでもそう思っている。 だが実際に使われたのはT型だったらしい。 理由は次のとおりだ。 二本の柱を十字に組むには、両方に切り込みを入れて噛み合わせる必要がある。 それには時間も費用もかかるだろう。 奴隷や反逆者を処刑する為に、ローマ軍がそれほど立派な刑具を用意したとは考えにくい。 また処刑される人数も半端ではなかった。 街道沿いにはるか彼方まで十字架を並べて、見せしめのため一度に数千人を処刑したこともある。 こうした条件の下では、より簡単なT型が使用されたと見るのが妥当だろう。
おっと、この記述は少し微妙な問題を想起させる。 だって教会の聖堂に飾られている十字架も、また悪魔除けに首からかけるネックレスも、全て十型だが、本来はT型にすべきだという事になってしまう。 いやそれ以上にキリスト教徒のお祈りのしぐさで十字を切るのも、本来はT字を切るべきことになる。
いや、それ以上にパウロを中心とした初期キリスト教会は、イエスがキリストとして十字架にかけられ、そしてその三日後に再生したことに重点をおいていた。 とすると十字架の形状を誤って伝えたとなると事は重大だ。 (ちなみにパウロは斬首刑で死んでいるが、これは彼がローマ市民権をもっていた為らしい。 つまりローマ市民は磔刑にはされなかった。 まさか、だから磔刑の光景を知らなかったとは思えないが・・・ )