escalator
男の後を少し間を空けてエスカレータにのり
そういえば最近は上りエスカレータが増えたけど
下りは少ないんだよな、ここも横に階段があるだけで
酔っぱらって怖いのは上りではなく下り階段
こんな時に欲しいのは下りエスカレータだよな
などと愚痴ながら
しかしヤケに長いエスカレータ
下を振り返ると地下街はもうずっと彼方で2F以上は上った感じ
しかも上はまだまだで出口も見えない
なんだよ東京の地下鉄じゃあるまいし
不安がよぎったが今更ここを降りる事もできず
誰もみていないからと
試しに数ステップ下りてみたが
彼の千鳥足では同じ場所に留まっているだけで
そんな事をしている間に先に乗っていた男の姿も見失い
しかし若い頃ならひょいと隣の階段に飛び移ってとか
上りエスカレータを駆け降りるなどもやっただろうが
いい歳したオヤジがそんな事はできないよな
などと諦めて手すりに身体を任せて立っていると
その倍は上がっただろうかやっと出口がみえてきて
しかし何故かエスカレータの踊り場少し先に改札口があり
今では見かけない切符切りの駅員がひとり立っている
エスカレータの先でしばし
切符バサミをカラ打ちする駅員を啞然と見ていると
駅員は業務連絡調に彼をせかし
「まもなくこの改札口は閉まりますのでお急ぎください」
まごつく彼に駅員は
「切符はおもちじゃないんですか」
切符なんて持ってないが、それがなきゃここを通れないのか
といって振り返ると奈落へと続く様な階段
今更にココを下りるのは勘弁だが、といって
カラの両手を上げて、そりゃないよとあんぐりしていると
「ほらその左手のを渡してください」
なんの事かわからぬままに左手を差し出すと
駅員はさも彼が見えない切符を持っているかの様に
それを受け取る仕草をして、なおもハサミをガチン
その瞬間にキリっとした痛みを感じ
それで彼は条件反射的に改札口を通り抜けたんだが
何故か突然に彼の周囲の風景が変わり