food cart

灯台の裏側に回ったところで男が先を指さし
「ほらあそこに灯りがみえるでしょ!
 老舗の中華そば屋の屋台で、おすすめですよ!」

確かに薄暗い岬の付け根あたりに鬼火の様な灯りが見え
そこまでの細い道がおぼろげに浮かび上がっている
そうかここはその岬の先端辺りか
にしてもこの男はナニモノ?怪しすぎる!

しかしそう思った瞬間には男の影が消えていて
見渡すかぎりに人の気配もない
まさか幻聴、幻覚の類かしら
しかし彼のモットウは理由よりは結果
今は中華そば、とにかくあそこに行ってみようと
細道を注意深く歩きながら

確かに屋台に近づくと「中華そば」の提灯が点いていて
しかし店主は椅子に腰かけ舟を漕いでいる
つまり居眠りしているようで、声をかけると
「旦那、遅すぎるよ!とっくに火をおとしちまって」

別に予約した気もしないし、といって話が通じるでもなく
今までの経緯を説明しようもなく
と店主が
「腹が減ったんならこの先の浜辺を数キロほど行けば
 漁港があるから、新鮮な魚が食えますぜ」
いや食いたいのは中華そばで魚じゃないんだが
しかし残念感が飢餓感をまた増やしたようで

しかし既にヘトヘトだというと
それなら店をしまうところだから
そこまで送ってやってもいいがと
それじゃ悪いと、しかし空腹と疲れが先行して
それじゃ頼むと

すると店主はどこからかバイクを取り出してきて
その後ろに畳んだ屋台をつなげると
彼をそのバイクの後ろに乗せて
ノッタリと海岸通りを走り出した

気分が良いとは程遠いが、そんなに悪いこともない
ましてやあそこに置いていかれたら迷子だよと少し汗で
感謝の気持ちが少しはわきながら
しかし俺のヘルメットはなしかと心で毒づき


by seven 2022/08/01