shack

するとその海岸通りの端の方に平屋の民家が見えて
こうなりゃヤケだ
せめて一晩くらいは泊めてもらえぬかなどと
都合勝手な思いがわいてきて

少し元気をだして行ってみるが
玄関から出てきたのはかなり高齢の婆ちゃん
何を言っても「はあそれは大変でしたねぇ」
ばかりの生返事、また少しハラも減っていたが
ナニか食べさせてくれとも言い出せず
それでも海岸沿いの部屋に案内してくれて
そこで一晩泊めてやるから、そこで寝るが良いと

彼は寝床があるだけ上等だと諦めて寝付こうとするが
しばらくするとどうも家が傾いた様な
いやマサカと思いしかし不安になって

それで居間にいってみると婆ちゃんは未だ起きていて
「今夜は波が高いからねぇ」と平気顔
さすが海で長年生きてきたひとは肝が据わってる
しかし大丈夫かと訝りながらも再度、寝床に戻り

それで疲れからぐっすり寝込んだんだが
尚もしばらくすると部屋がドンドン傾きだして
しかも窓の外に波が押し寄せている音がする
「おや今夜は高潮かねぇ」
婆ちゃんは襖から覗くとイソイソと家の外へ出ていき
冗談じゃないと婆ちゃんの後を追おうとするが
身体が寝ぼけて動かない、それならと窓から外をみるが
波がドンドン高くなり
今にも家の土台を流す寸前までなっていて

なんだよヤバすぎる
でも彼の経験則では危ない時にはむやみに動くなと
よしもう少し様子をみていよう
しかし波は尚も高くなり部屋の中にまで届き
ついには彼の足元もしぶきがかかりだして
蟻地獄にはまった蟻さながらに
今にも彼を波間に落とそうと迫ってきて

すると突然ガクンと音がして家全体が揺れだした
高波がこの民家を海にさらってしまったのか
とにかく床の上にも海水が溢れだし
たまらぬと窓から外へ這い出して
波にさらわれぬ様にと屋根のへさきにしがみついたが

辺りを見渡すと予想通りに家は海に放り出されていて
既に岸から10m程は流されているようだ
その岸では婆ちゃんが手を振っている
彼は助けてくれと大声で叫ぶが
婆ちゃんはただ手を振るだけ
まるで旅人を見送るように

そして今までで一番大きな波が押し寄せて
彼はその波の渦の中にのみこまれ・・・


by seven 2022/08/01